日刊アルバムレビュー④人間プログラム/THE BACK HORN

The Backhorn 雨の日比谷野音 サニー

音楽を聴きましょう。

本日は、98年結成のロックバンドTHE BACK HORNのメジャー1stアルバムを。

THE BACK HORNは情熱的なライブバンドという印象が強いかもしれないが、長い歴史のなかで出されたアルバムを聴くとその音楽の方向性は様々だ。

ありとあらゆるジャンルの音楽がメンバーたちの感覚のもとミクスチャーされ、「生と死、争いと平和」といったヘヴィな歌詞世界が配合され出力される。

だが、その根底にあるものは人間の精神のもっとも深い部分にある、普段の生活では直視することのない暗い感情だ。初期の音源では、Gt.菅波栄純主導のもとそういった人間の深い闇をまざまざと映し出す楽曲が多く制作された。孤独なひとりの人間がもがき苦しみながら産み出された世界が、BLANKEY JET CITY直系のオルタナティブ・ガレージ・サウンドと融合したとき、THE BACK HORNの音楽はまるでひとつの巨大な黒いうごめきとなって我々を襲う。

その独特な世界観がもっとも強いかたちで表現されたのがメジャー1stで、このアルバムが制作される際にメンバーはスタッフによって山小屋のような場所に幽閉され、極限状態のもと曲作りが行われたという逸話はあまりにも有名だ。

そのような状況下で制作されたからか、このアルバムの楽曲は強い一貫性があり、一枚のコンセプト・アルバムとしての完成度は彼らの作品でも群を抜いているように思う。

#1 幾千光年の孤独、「天国に空席はない」のあまりに衝撃的なフレーズで始まるこのアルバムはVo.山田将司の悲痛な絶叫のごとき歌唱によって突き進む。決してテクニカルといえない演奏はむしろ彼らが不器用な青年であることが強調されているかのようで、盛り上がりは#3 サニーでひとつの頂点を迎える。黒人の少女を描いたというこの曲は今後のこのバンドの方向性を決定づけるかのような力強い疾走感にあふれている。

#4 8月の秘密では一転して絞られた音数と朴訥な歌唱が印象的なミディアム・ナンバーで、言葉遊びを含有した歌詞はノスタルジックな情景さえ与えるが、唐突に登場する「防空壕」は強烈な印象を放ち、幼年期特有の残酷さを暗示しているかのようである。続く#5 水槽は本アルバムでもっとも暗く、重苦しい楽曲だ。フィードバックノイズを駆使して表現される金切り音が曲全体を覆う。リスナーは、このどこまでも内省的で、孤独な世界が#6 ミスターワールドで決して空想のものではないと知らされる。「避難場所を示した/看板を蹴り上げる」あまりに具体的な歌詞によってこのアルバムがひとりの青年を描いたコンセプチュアルなものだと知ることになるだろう。

#7 ひょうひょうとは、このアルバムで初めて生と死の、「生」の側面を克明に描き切った名曲で、命など所詮掃き捨てるほどの価値しかないが、だからこそ時に力任せ、時にひょうひょうと生き続けざるをえないという、理想論一切抜きの菅波栄純の正直な価値観が描かれる。

育児ノイローゼという、あまりにも深刻すぎるテーマと向き合った#8 アカイヤミを経て、このアルバムは最大のクライマックスへと向かう。#9 雨は、これまで描かれてきたTHE BACK HORNの世界の集大成となる大曲で、儚すぎるギターリフに乗せて語られるのは「部屋の隅で少年の俺が笑ってる/鉄の壁とさめてゆく景色/目を閉じる」これまでと変わらない内省的な世界観。しかしこの曲はまるで狼の遠吠えのごとき山田将司の絶叫を経て、この曲は転調、まるで雨が晴れたかのような壮大で美しい大サビに流れ込む。インディーズ時代の名曲 冬のミルクを思わせるような実直なメロディラインとどこまでも広がる星空を描いた歌詞世界は、このアルバムが大名盤であることを決定づけるには充分だろう。

暴動のごとく迫りくる怒りと哀しみ、虚無感と狂気の奔流は一転、#10 空、星、海の夜であたかも嵐が過ぎ去ったあとのように静まりかえる。「目覚めると俺は/夜の底まで/落ちていたよ/真っ暗な部屋の中」ここでリスナーは、今までの世界はある種の夢オチであったと知る。牧歌的な情景すら浮かぶ美しいメロディと共に語られるのは鮮やかに彩られた世界と、歌に導かれてひたむきに生き続ける人間の姿。メジャー2ndシングルとしてリリースされていたこの曲はTHE BACK HORNの新たな一面を窺い知ることができる。しかしここで描かれる世界は、これまでの曲とアプローチが違うだけの、まったく同種のものだ。世界は歌によってどこまでも暗い部分も、明るい部分も映し出せる。菅波栄純の感性は極限まで研ぎ澄まされている。

アルバムは#11 夕焼けマーチでクライマックスを迎える。前曲で提示された美しい世界とそれまでひたすら描かれていた暗い世界はこの曲によって地続きであったと明かされる。まるで地獄の風景や、戦時下の様子であった世界はすべて現実の世界が歪んで切り取られた一面であったと知る。世界はあまりにも赤々とした夕焼けに塗りつぶされ、コントラストを失ってみえ、すべての価値観は均一化して語られる。狂気的に明るいトランペットの音色だけが残り続ける。

このアルバムが制作されたとき、メンバーはまだ22歳、ちょうど9.11の翌月に発売となった。この時代の若者が抱いていた閉塞感、未来への絶望といった暗すぎる感情と、そこから抜け出そうとするエネルギッシュな情動をあまりにもストレートに受けとることができる。

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