エッセイの気楽

 エッセイって書いていて気楽だ。なんだか気楽だ。「何も考えずにつらつらと文章を書けるから気楽」、というわけではない。確かに、兼好法師は心にうつりゆくよしなしごとを何とはなしに書き付けていたらしいし、人によっては、「自分の感じたことをそのままびゃーっと書けるからエッセイはいい!」って人もいると思う。ただ、自分の身に引き付けて考えてみると、そーゆー考えはあまりしっくりこない。自分が文章を書くときは、どういうスタイルであろうと、それなりに考えつつちょこちょこ工夫して書いている(つもり)ので、「何も考えずに書く」という感覚はよくわからない。しかし、それでも、エッセイは気楽だ。どうでもいい文章を書くときでさえ、あーでもない、こーでもないと変に熟考してしまう自分にとっても、やっぱりエッセイは軽快で気が楽な感じがするのである。

 文字はほとんどの人にとって非常に身近なメディアだけれど、その表現スタイルの多様さはとても語り尽くせない。文章表現に限っても、評論、小説、エッセイ、詩文、ツイート、レシピ、日記など、いろいろなスタイルがある。そして、それぞれのスタイルにはそれぞれの長所があるので、書き手は目的、興味関心、自身の力量などに応じて、スタイルの取捨選択を行う。例えば、自らの思考を明確に伝達したいなら、書き手は論文という表現スタイルを選択するかもしれない。私も選択したことがある。というか、選択しないといけなかった。大学を卒業するために論文を書かないといけなかったので(学士並感)。書いてみて思ったけど、論文は、疲れる。とにかく疲れる。論文書く上では当たり前のことなんだけれど、厳密性が要求される、という点がまあ、疲れる。論文というものは、きちんとデータを示して、論理を首尾一貫させて、誤解を生まないような語彙を用いる。舐めた文章を書こうものなら「なんかそういうデータあるんすか?」とか言われてしまう。普段から、データとか厳密性とか度外視して、「○○的な感じがしなくもなくもない」とか放言している身からすると、この作業はなかなかに骨が折れる。あと、個人的に論文書いてて一番しんどかった点は、自分が「これは厳密やしええ感じやろ」と思って書いた内容が大体徒労に終わること。一学部生が書いた論文の内容なぞ、大概、既に誰かが言及していたり、とっくの昔に批判し尽くされていたりする。自分では、「ある現象を良い感じに説明したぞ!」と思っていても、その実、何も大したことが言えていないということが、論文を書いていたときはままあった(てか、それがほとんど)。舐めた内容を書こうものなら、「それってあなたの感想ですよね?」と批判されて撃沈される。文章内容に厳密性が要求されるというだけでも疲れるのに、厳密に仕上げたつもりの内容が全くガバガバなものだったときの徒労感はすさまじい。まあ、科学とか学問ってそういうことの繰り返しを続けることに意味があるのだとは思うのだけれど。とにかく、論文は、居住まいを正して書かなければならないので、思考内容の表現スタイルとして、個人的に、ちょっと息苦しい感じがするのだ。

 その点、小説とかは自由でいい。話の構成を好き勝手にいじくっていいし、ワードチョイスの裁量も、論文に比べると段違いだ。余分なレトリックも使い放題なので、論文には見られないような文章の妙味が見られる。小説を書く目的も、論文を書く目的ほどには限定されていないように思える。仕事目的で書いている職業作家もいれば、趣味で小説書いている人もいる。小説は文章の表現スタイルとして、論文みたいなかっちりしたものに比べると、圧倒的な余白が書き手に残されている。いいよね~(-_-)。ただ、あまりにも自由過ぎるので、それこそ、論文みたいに思考内容を明確に伝達するのにはあまり向いていない。特定のテーマとかを具体的な文脈込みで伝えることはできるのかもしれないけれど(純文学とか?)、細かい主張を表現するには、やっぱり向いていない。

 そこで、エッセイである。エッセイは、文章表現それ自体の面白さを残しつつ、書き手が感じていること、考えていることを表現しうる。それなりに真面目なことも言えるし、ツイートみたいに字数が制限されているわけでもないので、文章量も自由である。エッセイには、論文と小説のいいとこドリップをしたようなスタイルとしての魅力がある。ほどほどに言いたいことが書けて、ほどほどに文章それ自体に工夫を凝らすことができる(工夫が面白いかはまた別の話だけれど)。だから、エッセイは気楽だ。厳密性に振り切るわけでも、レトリックに振り切るわけでもない。肩ひじ張らずに色々なことが書ける。そういう軽さというか、気楽さみたいなものを、エッセイチックな文章を書くときに感じる。誰かの話を聞いたり、本を読んだり、えも言われぬ経験をしたとき、二千字ばかりの下らねー雑念が押し出されるようにして出てくるとき、エッセイというスタイルが持つ軽快さをちょこっと意識する。おわり。

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