絶対可憐チルドレンが終わった

16年の連載が終わった。

非常に思い出深い作品だ。幼少期にめちゃくちゃ読み返した。サンデーっ子だった。

古本屋で買った2巻から始まり、新刊を追いかけるようになった。下ネタはよく分からなかったけどとにかく何度も読んだ。

小学校の長期休みで出かける時も、2-15巻をリュックに詰めていたことは少なくない。(1巻)

記憶が確かならば最初に読んだラノベは絶チルのノベライズということになるだろう。

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そんな思い出深い作品なので、多少のとりとめのない話も許してほしい。興味を持ったら、とにかくこのネット社会の無料のアプリか何かを使って、あるいは金を払って読んでほしい。

小学生編おもしれ~

この前に無料公開があったので、改めて全編再読した。それで思ったのが、「とにかく小学生編が面白い」ということだった。面白くて楽しい。

絶対可憐チルドレンの面白さを自分なりに言語化してみると、エピソードの密度という表現になる。

特に個人的に完成度の高いと考えている小学生編(1-15巻)においては、コミックス一巻ぶん続くエピソードがほとんどない。3-6話で、愉快で芯の通った話が展開される。コミックスを1冊読み終わったとき、しっかり詰まったエピソードが2つ3つ読めているので満足感が凄いのだ。これは最近読み返しても変わらなかった。週刊で読んでもコミックスで読んでも、漫画アプリで1話ずつ読んでも変わらない面白さだ。

内容ももちろん面白い。「超能力」が当たり前になった世界で、「源氏物語」を下敷きにした女子小学生・明石薫と青年・皆本光一の淡いラブストーリーを「未来予知」というモチーフで繋ぐ。(主要キャラはみな「源氏物語」のもじりである)子どもたちに「未来がある」と青年は説くが、しかし「未来がある」ということは将来の自分の恋心を認めることになる……という、フックに不足ない設定で期待感を持たせたまま、魅力的なキャラクターたちが所狭しと登場する。

サブキャラクターも皆魅力的だが、一人挙げるなら兵部京介しかいないだろう。

「WEBサンデー」より

学生服に身を包んだ催眠能力者のお爺ちゃん。非常に強い催眠能力を使って場を思うがまま引っ掻き回す。『呪術廻戦』の某と個人的には近いポジションだとは思う(あちらは味方だが)超能力を持たない「ノーマル」への憎悪はかつて日本軍の「超能兵士」としての過去に由来している——というこれまた美味しいキャラクターだ。チルドレンたちが未来への可能性を背負う一方、兵部が血塗られた過去としての重力を担うことで小学生編の構図を引き締めている。人気と便利さがどんどん膨れ上がっていくのだが、良くも悪くも「裏主人公」としての立ち位置を最後まで保っていたと言えるだろう。そのほか、序盤の敵役を務めたテロリスト「普通の人々」から最終回のみ登場する○○の肉親まで、どこか抜けた魅力を持ったキャラクターばかりだ。

SF的な設定も面白い。椎名先生は『GS美神』では「霊能力」をあれやこれやとこねくり回して名作映画のパロディをぶち込んで何でもありの作品を作り上げた。

もちろん絶チルも、「超能力」の解釈をどんどん広げ、映画や漫画のパロディはもちろん、果ては「PUBG」のパロディまでやってしまう。SF的な(屁)理屈を展開しつつも、それを基にしっかりと人間ドラマが展開されるため驚くほどスムーズに読めてしまうのだ。

強すぎる力を持って捻くれてしまった子どもたちへ未来への可能性を説き、成長を描きながら、一方で重い過去を匂わせたり、超能力を持たないような人々に焦点を当てることで世界観を縦にも横にも広げていく。その集大成を「大人代表」であった青年・皆本を「子ども」に戻すことでまとめる「オーバー・ザ・フューチャー」は小学生編のラストに相応しい名エピソードだ。

中高生編~ラストも、まあ

雑なまとめ方をしてしまい申し訳ない。誤解なきよう言っておくが、小学生編以降も面白いことは面白い。一気に読んでみると、伏線も巧妙に張られているし、展開自体もお約束を守りつつ二転三転している。終盤でも「チルドレンの代わり」と「皆本の代わり」を組ませるなど巧みな進行が成されている。

しかし、週刊にしては振りがやや遠大であったことも否めない。小学生編に比べて1エピソードにかける話数が伸びているのは数字に表れている部分だろう。まとめて読むと面白いが、週刊だと……というのは何もこの漫画に限った話ではないが。

また、チルドレンたちから焦点を外し、兵部の過去を単行本1巻以上かけて描いたりするのもテンポ感を損なう要因の一つだ。昭和の世界での超能兵士たち、というのは面白い題材なのだが、結末自体は既に仄めかされていた事件の詳細が挿入されることで、何だか物語を阻害されたような感覚を覚えてしまった。

中学生編以降、「黒い幽霊」という組織にフォーカスが当たる。エスパー保護機関のバベルとテロリストのパンドラの小競り合いから一転、エスパーを兵器として扱う悪虐非道な組織が敵役を務めることになった。

……のだが、やってることがやってることだけに、椎名先生の「どんなキャラにでも愛嬌を」というスタンスが自分にはノイズに感じてしまった。パンドラの少女テロリストがよくわからず金の延べ棒を盗むのは微笑ましく思えても、孤児を改造して兵器として扱う相手にはどうも愛嬌は要らないのではと思ってしまうのは傲慢だろうか。

単にリアリティラインの線引きなので違う意見の人もいるだろう。「黒い幽霊」の話はかなりヘビーな背景を前提にしており、組織のユーリを取り巻くドラマなどはよく出来ているのだが、真剣になりきらず茶化してしまう作風とマッチしているとは思えなかった。

基本的にシリアスな話が続くと「この漫画こんな感じだっけ?」とメタな台詞が出るくらいにはコメディアスで楽しい作品なのだ。兵部は超能力を持たない「ノーマル」を殺すことを厭わないが、そんな彼にチルドレンが近づくこと自体が序盤の緊張感を成立させていた。それは兵部京介の飄々としたキャラクターによる奇跡的なバランスだったのだろう。

終盤で仲間が洗脳されるという展開が起き、彼らの精神の負の面が強調されたが、これも重い部分と軽い部分が両立したような不思議なバランスであった。やっていることはなかなか急角度だがノリは軽い、というのが自分の印象である。

奇跡的、と評した兵部だが、中学生編以降話の中心に来ることが増える。催眠能力を活かして、高校に入学したりとやりたい放題だ。(そこまで引っ張ってはいないが)

前述した長めの過去回想も相まって、絶チルは「破滅の未来を回避できるか」と同じくらい「兵部は過去を振り切れるか」が重要なポイントになってくる。小学生編の「皆本⇄チルドレン」という関係性が好きだった自分としては、その関係性を引き立てていた兵部がどんどん前に出てくる様は自分にはやや合わなかった。酷なことを言うようだが、兵部は影でこそカッコ良かったのだ。

そんな兵部も主役のアニメ「UNLIMITED」がそこそこに人気を博し、アニメオリジナルキャラクターが漫画に逆輸入されたりもしている。パラレルワールドとしてのスピンオフを組み込むことについて、粗雑とするか柔軟とするかはその人次第だろうが。

兵部の立ち位置を考えると、本編のラスボスと評すべきギリアムにも触れねばならないだろう。詳細は省くが、色んなキャラクターに救済が与えられたこの絶チルワールドで、ギリアムは唯一救われなかったキャラクターだった。

チルドレンたちが輝く未来・可能性で次々と周りの人間を変えていく中で、ギリアムは最期までそれを拒否した。自分が変化することを自虐的に拒否していた兵部は、ギリアムと対峙するのに相応しいのは間違いない。が、逆に皆本やチルドレンは深くギリアムと相対できたかというと疑問が生じる。こういった面も兵部が裏主人公として飲み込めるかどうかではあるのだが。

でもやっぱり好き

チマチマと小言を言っているが、トータルではやっぱり好きな作品だ。何がそんなにヒットしているのかというと、「皆本とチルドレンの関係性」、抽象化すれば「大人と子供の関係性」が自分好みだったというところになる。

皆本は天才少年で周囲と上手く馴染めなかった。幼い頃から最強の超能力を持っていたチルドレンも同じだ。だから皆本は容易くチルドレンに手を差し伸べることができる。チルドレン同士もそうだ。

また、皆本が大学時代に「キャリー」という少女と関わったこともチルドレンへの接し方に影響を及ぼしている。「君たちはどこへでも行けるし、何にでもなれる」という言葉はこの作品を象徴する素晴らしい綺麗事だ。

ただ作品が綺麗なだけかというとそうではない。この関係性に「皆本は未来の薫に恋焦がれている」という要素を持ち込むことによってこの素敵な「大人と子供の関係性」を言わば「茶化し」ている。このバランスも絶チルらしさの核だ。

兵部も、かつて皆本と同じ言葉をかけてくれた大人に裏切られたことで皆本を否定するようになっている。(この辺りは本編で紆余曲折あるのだが)皆本の願いがプラスに作用するとは限らない、という註釈だ。このアンバランスな構造を活かし、少しずつ未来へ向かって進んでいく様が絶チルのドラマの面白さである。

小学生編は日曜朝にアニメ化され、ストーリーにはもちろん改変がされつつも、今となっては超豪華声優たちによる多数のキャラソン、小学生ユニットによるOPなどバラエティ豊かな作品として名を有名にした。(ちょうどAmazon primeで配信されている!)OPを歌った子がBABYMETALの一員として活躍していることも有名な逸話になっている。

再三繰り返すが、とにかく小学生編は面白い。というより、小学生編で物語自体は終わっているとさえ思う。最終回のリフレインを読んでみて、より一層その想いは強まった。未来の輝かしさと不安定さについて、小学生編で見事に描き切っていると思う。

後は、「黒い幽霊」の悪意が首をもたげてはチルドレンたちがそれを打ち破っていくさまや、兵部の過去がより克明に描写された上でその亡霊との決着を付ける、というのが中学生編以降の大筋になっている。

完結した今なら、大人が孤独な子どもに「手を差し伸べる」というモチーフに興味があるのなら是非読んで欲しい。作者もTwitterで発していたが、まずは小学生編まで読んでみて欲しい。キャラクターたちのその後が気になれば続けて読んでみても、今なら一気に読めるのできっと損はしないはずだ。

何を隠そう、なぜ自分が何度も子どもの頃に読み返したか、なぜ小説やアニメまで楽しんだのかと言えば、この漫画に勇気を貰ったからに他ならない。

ここではそれで充分だろう。

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